自動車整備士の給与は安い。(もちろん他業種全般に比べた場合の一般的な話)
「なぜなのか」
自分なりに理由をあらためて考えてみた。個人的な見解なので気を悪くする人がいるかもしれないが、一つの見解として読んで欲しい。
まっ先に思いつくのは

「自動車整備士」という仕事が、職人の仕事であったからではないかということだ。
日本の世の中に自動車が登場した。自動車のメンテナンスをする自動車整備工場が必然的に登場した。
そして、自動車の普及に伴い自動車整備工場はちょっとづつ増えていき、整備工場を起業したい若者も増えていった。
しかし当時の世の中に、整備士の学校などあまり無かっただろう。
整備士になって整備工場を作りたければ、既存の整備工場に勤めて自動車の整備技術を教わるしか方法がない。
映画「3丁目の夕日」を見た人であれば、正にあのイメージだろう。
「社長と従業員」とは違う、「師匠と弟子」のような、今で言う落語家に弟子入りするような感覚ではなかっただろうか。
もちろん当時から、そんな弟子の給与が高いわけがない。
半人前の弟子に高額な給与を支払う職人はいない。
自動車整備士だから給与が安いのではなく、修行中の弟子だから給与が安かったのだ。
そんな時代が長く続き、様々な環境の変化があったのにもかかわらず、今も尚、その時の流れから、従業員である整備士の給与が安い。
これが、現在も自動車整備士の給料が安い根本的な原因となっているのではなかろうか。
当時の状況を考えると、「修行ののち独立して起業したい」といった野望を持った整備士が大半であり、それまでは給与の安さや待遇の悪さは当然のように我慢しつつも「いつかは自分の整備工場を・・・」と夢見ていたに違いない。
そして時代はモータリゼーションに突入し、自動車の業界には追い風が吹き荒れる。
自動車の普及とともに自動車整備工場は高度経済成長期の終わりまで爆発的に増え続け、若い頃にディーラーや整備工場に従業員として勤め、修行したのちに独立起業した整備士も数多くいたと思われる。
そして、その中の多くの人が成功した。
若い頃の給与が安いことを差し引いても、自分の整備工場を持つことができれば、社長となりそれなりの収入を得ることができただろう。
だからこそ給与が安いと嘆く人もそれほどいなかった。
業界は成り立っていた。
もちろん現在は状況が違いすぎる。
国内の自動車販売は完全に飽和し、「独立すれば比較的簡単に成功する」といった考えはもう神話と化した。
若い整備士は、整備士として、従業員として、生涯働くことを考えている人が多い。
他業種に比べ極端に安い給与であれば、納得するはずもないのは当然だろう。
もう一つ思いつく

これも昭和の頃の日本の話だが、自動車というものは若者の魅力に溢れていた。
当時の若い男性にとって自動車は、憧れ、趣味などの格好の的になり、かっこいい自動車に乗ること、自動車について詳しいことが男としてのステータスとなっていた。
今のようにスマートフォンやテレビゲームが無かった時代、自動車は単なる「乗り物」ではなく、たくさんの魅力に溢れたものとして、若者をとりこにしていたのだ。
自動車整備士という仕事は、男にとって「憧れの職業」の一つであったのではないだろうか。
年配の整備士の人から、実際にこんな話を聞いたことがある。
「中学生の時、勉強が出来ないやつは、『自動車整備士になりたい』と言うやつが多かったよ」
それを聞いたときは、「勉強が出来ないやつは自動車整備士」というところが引っかかり、いろんな意味で「酷い話だ」と、ネガティブに受け取ったが、よく考えてみるとそれは自動車整備士がそれなりに人気職だったことの表れなのかと思い直した。
しかし、当時から学力の高い学生が目指す職業ではなかったことも、やはり受入れなければならない。
さらに、やんちゃな若者にとっても自動車は魅力的であり(現在同様に)、そういった若者が目指す職業にもなっていた。
つまり、世間は(経営者は)それほど学力の高くない若者にそれほど多くの給与を与えず、仮に辞められても、どんどん若い人が入ってくる業界であったため、それで成り立っていたのではないか。
もちろん今は違う。
自動車も自動車整備士という職業も、人気があるとはとても言えない。
自動車に改造を施して楽しむ若者も減った。
若い男性が軽自動車に乗り、30・40代の男性が経済性重視のプリウスに乗る。(なにせ整備士である私もその一人だ)
そればかりか、特に都会ではクルマ離れがすすみ、車はもちろん免許を保有しない人も増えた。
そんな状況の中で、わざわざ国家資格が必要であり、なおかつ給与の安い自動車整備士になる若者が減っているのは当然の結果だ。
最後に
私は自動車整備士の給与が安い理由を、上記のように単純に昔からの流れでそうなっていると考えている。
かつては、給与が安くても成り立っていた整備業界の流れを、時代や状況が大きく変化した現在では、当然に改革していかなければならない。
かつての整備業界の話をしている場合ではない。
実際に整備士の数が減っており、もはや外国人の力を借りなければならない状況だ。もちろんそれは簡単なことではない。
行政も含めて、業界全体で取組まなければならないのは言うまでも無く、それには若く新しい力が必要だろう。
近い将来、自動車整備士が再び魅力的な職業になることを期待したい。