近年、自動車の高度化によって「自動車整備は難しくなっている」「自動車整備も高度化している」と懸念する声や、年配の整備士の方からは「もう新技術についていけない」「ディーラーでないと修理できない」などと言う声も聞こえてくるようになりました。
はたして本当にそうなのでしょうか。
この記事では、EV、ASV、アイドリングストップなどの新技術に対して、整備技術は難しいのか、難しくなっていくのか、これからどうなるのかについて元ディーラーの一級整備士が解説します。
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
自動車整備の変化

「電動化」「EV化」「自動化(無人化)」など、自動車が高度先進技術の搭載が進み、自動車は「100年に一度の大変革期」と言われるようになりました。
自動車業界でこれまで経験したことのないような変化が急速に進んでいることは、確かに疑いようのない事実です。また、これから先も急速に変わっていくことでしょう。
それにともない自動車整備の内容や方法も変わってきています。
それでは具体的にどんな風に変わっているのか、変わっていくのかについて考えます。
点検・車検整備の変化

今現在、点検整備や車検整備の方法は30年前と大きく変わっていません。
なぜなら、法律がそれほど大きく変わっていないからです。
自動車整備に関わる関連法(道路運送車両法など)では、自動車の点検しなければいけない個所や、その点検時期について、大昔の時代から明確に決められています。それをもとに整備業者は整備をし、ユーザーからお金をもらっています。
現在はハイブリッド車が普及して車の構造自体も変化してきていますが、法律が変わっていないため、点検するところは昔の車と同じです。
つまり、点検・車検整備の内容や点検時期については、基本的に昔と変わらないため、例え70歳の高齢整備士であっても、特に苦労なく今まで通り作業できる状況となっています。
但し、今後は点検・車検整備の内容が大きく変わることとなります。
国ではこれまでの点検や検査の方法を見直し、「高度化」「電動化」された現在の自動車にマッチした点検整備を実施することとなります。国では現在、実際に官民一体となって様々な委員会やワーキンググループを立上げ、点検整備の手法を検討しています。
具体的には点検・車検整備は次のように変わる可能性があります。
- リスト車検時にスキャンツール(故障診断機)でシステムの故障の有無を点検し、合否判断する
- 自動ブレーキや車線逸脱警報装置などの運転支援システム(ASV)について、法的に定義を明確にし、確実に点検する
- スキャンツールを利用して、排気ガスの状態を点検する
- 車検証、適合標章などのこれまで「紙」媒体であったものをデータ化し、電子処理していく
点検・車検整備は今のところ大きく変わっていません。しかし、今後大きく変わることは間違いありません。
故障診断整備の変化

「自動車は故障する」
このことは、現在の電気自動車やハイブリッド車においても全く変わりなく、将来の自動車においても同じことが言えます。自動車は今も昔も将来も故障します。そして故障すれば整備士は修理しなければなりません。
整備士は「何が原因で、どこがどう壊れて、どう修理するのか」について故障診断しますが、故障診断の方法は時代と共に変わってきています。
それでは、近年の自動車の故障診断整備はどう変わっているのかについて「20年以上前」「現在」「近い将来」に分けて説明します。
20年以上前
整備士は、経験と勘(カン)、分解、目視などで、不具合を特定し修理します。その技術は、ある程度熟練されなければ習得できず、「自動車整備士=職人」というような時代でした。
現在

スキャンツール(故障診断機)によってデータ解析やテスト等を行い、不具合を特定していきます。
自動車は電動化、高度化、多様化が進みコンピュータや複雑な電装品も増えています。そうなると、目視では不具合が判断できない故障が増えることとなります。
そして、このような装置の故障診断整備の割合が増えてきたため、「ついていけない」「変わってしまった」と嘆く整備士も増えています。
このような目視ではわからないような故障を診断するためには、スキャンツールによる故障診断が必要です。また、その診断方法や内容については、基本的に自動車メーカーから提供される整備マニュアルの指示通りに実施します。
もちろん経験や勘(カン)も必要ですが、それを裏付けるデータなどによって、診断の信頼性をあげるとともに、診断のスピードも上げます。
近い将来

経験や勘(カン)、目視だけで故障診断できるものが限りなく減っていき、全てはスキャンツールや整備マニュアル、サーキットテスタなどで電気的な診断をしていくこととなります。
さらに「高度化」「電動化」された装置が増え、原動機もエンジンからモータに変化していきます(EV化)。
もはやこれまでの経験値などはそれほど役に立たず、スキャンツールなどのコンピュータを使用した総合的な診断が求められます。
部品交換整備の変化
部品交換前や交換後に登録作業が必要
近年の自動車にはASVに関るコンピュータなどが数多く搭載されてきていますが、ブレーキやタイヤなど、自動車を構成する基本的な部品の変化はさほどありません。
しかし、それらの部品を交換する作業は変わってきています。具体的には、交換前の作業と交換後の作業が昔より増えています。
例えば、次のようなものです。
- エンジンオイル交換後にコンピュータの情報を書き換える作業
- バッテリー交換後にコンピュータの情報を書き換える作業
- 整備モードに入れてから、ブレーキフルードを交換する作業
これらの作業はいずれもスキャンツールを自動車につないで、搭載されたコンピュータと通信して行わなければならない作業です。この作業をスキャンツールを使って実施しなければ、交換後に不具合が起きてしまったり、交換自体ができない場面が出てきています。
また、自動車メーカーや車種によっても方法が違うため、1台1台必ずメーカーのマニュアル等を確認しなければできません。
例えば、「バッテリー交換は、整備マニュアルを見ながらスキャンツールを使用して実施しなければならない」ということになります。
「付いているものを外して、そのまま交換するだけでいい」昔の部品交換作業とは変わってきています。
自動車整備は難しくなるのか

難しくなるわけではない
前述した通り、自動車整備は変わってきています。
特に故障診断技術については、今現在も対応できない整備士が増える傾向にあり、「うちでは直せないからディーラーに外注する」という風潮も、特に年配の整備士の間にあるようです。現在の整備士に必要なスキルは「スキャンツールや整備マニュアル、サーキットテスタ」を使用した電気的な整備技術です。
しかし、それらを適切に扱うことができれば、熟練された整備技術・経験がなくとも自動車の故障診断・修理が可能になるという事でもあります。
スキャンツールを取り扱うことは、今の小学生が遊んでいるゲームよりも単純で操作も簡単なので問題ありません。整備マニュアルについては、よく読んで意味を理解し、その通り作業を実施できるかが重要です。
いずれにしても、特別な能力は必要ないことから、そういう意味では「むしろ整備技術は昔よりも簡単になっている」と言えなくもありません。
あとは、得手・不得手の問題やチャレンジ精神などが問題になるのではないでしょうか。
自動車は「EV化」「自動化」が進むと、自動車特有の技術がなくなり、家電製品と同じになるという人が多くいます。
確かに現在原動機として搭載されているエンジンは自動車特有の特殊技術であり、複雑で電気屋さんには修理できません。しかし、これが電気モータになるということは、モータの付いた掃除機やエアコンとの違いがそれほどなくなるようにも感じます。
とにかく整備士にも電気的な知識や技術が必要なのです。
最後に
近年の自動車整備は変わってきています。また、これからも急速に変わっていくことは間違いありません。
これから整備士や整備工場に必要なのは、熟練された技術ではなく、情報収集能力や電気的な知識と技術、さらには設備投資です。
しかし、変わっていくことと難しくなることは違います。いつの時代でも、時代の流れに対応できる人が生き残っていくものです。
特にこれから整備士になる人は、チャンスかもしれません。以前のように、整備士は経験値がものを言う世界ではなくなってきています。努力次第では、短期間に一流の整備士となることができます。ベテラン整備士を超える技術を持つこともできます。
これから整備士を目指す人は年齢的に遅いと感じる必要はありません。ぜひ、尻ごみせずにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
以上、自動車整備技術の変化についての解説でした。