現在、自動車整備士の人材不足は深刻で、外国人労働者に頼らざるを得ない所まで来ています。その原因は、整備士を目指す若者が減っただけではなく、整備士を辞める人が多いことにもあります。
また、家族などの大人から「自動車整備士はやめとけ」と言われ、自動車整備士になることを諦めてしまう若者もいるようです。
ではなぜ自動車整備士はそれほど辞める人が多く、周囲からも悪いイメージを持たれているのでしょうか。
その答えは、既に整備士を辞めてしまった人が転職した理由にあると考え、2016年に日整連がまとめたアンケート(元自動車整備業であった者に対するアンケート調査)結果を基に、自動車整備士が転職・退職する理由について、元ディーラー整備士で転職した経験を持つ、整備士ねっと管理人が解説します。
これから整備士を目指す人も、転職を考える整備士にも参考になる記事です。
SNSで拡散される「自動車整備士やめとけ」は正論なのか、この記事を読んで確認し、客観的に冷静に判断しましょう。
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
自動車整備士の転職・退職理由TOP5
- 賃金の条件がよくなかった
- 労働時間の条件がよくなかった
- 休日・休暇の条件がよくなかった
- 自動車整備業を続けていくことに対して魅力・安定性を感じなかった
- 賞与がなかった・少なかった
※出展:「自動車整備人材の確保・育成に関する検討会報告書(2016.4)」
1位、5位 賃金・賞与が良くない
自動車整備士の給与の低さについては、近年とても話題になっています。SNSで給与明細を公開している人も出てきて、TVなどでもたびたび報道されています。
もちろん、全ての整備工場の賃金・賞与が良くないわけでは決してありませんが、「賃金・賞与が良くない事を理由に転職を希望する整備士が最も多い」ということは事実のようです。
この理由が第1位ということに関しては、多くの整備士が納得できるのではないでしょうか。
関連記事>>>整備士の給料・年収の実態【整備士の告白/明細説明】
2位 労働時間が長い
自動車整備士の労働時間は比較的長いことが知られています。
特にディーラー整備士の労働時間が長い傾向にあり、私がディーラーで働いていた10年くらい前には、24時を回ることもありました。
「肉体労働でありながら、自動車整備士ほど残業時間が多い業種は他にあるのか」と時々思います。
第2位の「労働時間が長い」という理由は、おそらくそんなディーラーの整備士の意見が強く反映されていると思われます。
近年は労働基準監督署の指導や働き方改革等の動きによって、環境は良くなっていると思いますが、それでも2月3月の繁忙期には残業が多く、これが理由で転職を考える人も多い傾向があります。
なぜ、整備士は労働時間が長いのか
- 必ずその日に完成させなければならない仕事が多い
- 入庫管理ができていない
- 予定にない仕事が入る
- そもそも人手が足りない
上記の理由から、自動車整備業という仕事柄、労働時間が長いのはある程度は方がない部分もあります。
いずれにせよ、企業の努力によって改善できることばかりですが、特に入庫管理がしっかりできない整備工場ほど、整備士の労働時間は長くなります。
また、そもそも入庫量に対して、整備士の人数が足りていない場合があり、こうなると毎日残業が続くので整備士のモチベーションは大きく下がっていきます。
3位 休日・休暇の条件が悪い
単に「休日が少ない」という訳ではなく「土日・祝日の出勤が多い」ということですね。小型車ディーラーは、基本的に土日・祝日は営業日で出勤です。こちらは、特にディーラー整備士に多い理由となっています。
もちろん、多くのサービス業でも同じ事が言えるかもしれませんが、「できれば土日・祝日は休みたい」という人が多く、特に小さな子どもを持つ人にとっては、とても大事なことだと考えている人が多い傾向があります。
ディーラー整備士以外でも、規模の大きな民間整備工場や車検チェーン店の場合も同じことが言えます。土日でも休み安い環境があれば良いですが、多くの場合でそう簡単ではないようです。
そして単に「休みが少ない」という事実も確かにあります。ディーラーはGWや夏休み期間が長い事が有名ですが、全体を見ると一般的に休みが少ないです。
ディーラーの営業日を数えるとわかるのですが、営業日の全て出勤すると、労働基準のラインを超えてしまうディーラーが多いのです。
ディーラーを辞めた理由
私がディーラーを辞めた最大の理由は、土日・祝日に休日が欲しかったからです。「家庭を持ち子供を持ち、子育てをする」この課程の中にいる多くの整備士が、これを理由に転職を考える時があるのではないでしょうか。
4位 整備士を続けて行くことに魅力・安定性を感じない
私も整備士時代には、将来の不安を感じることがありました。
整備士として技術を磨き、資格などを取っている若い時代はあまりそう思いませんでしたが、ある程度経験を積み、整備士として一人前になると、なんとなく将来を考えるようになりました。
その頃には会社の経営状況などについてもある程度わかるようになります。そんな中で先輩や上司を見て「理想の将来ではない」と感じる事も多くなります。
また、体力的な問題で長く続けられない・続けたくないと、自動車整備士としての将来を不安に思う人も多いです。
そしてこの、「整備士としての将来が不安」という理由は、現在の整備業界が抱える深い闇を、色濃く表しているように思えますね。
自動車整備士の魅力
自動車整備士という職業について、若者を中心にインターネット上ではかなり否定的な意見が飛び交っています。特に給与や待遇の悪さについては、「本当にそんなに低い給与なの?」と目を疑う内容の記事やツイートも見受けられます。
もちろん、長年自動車整備士をしていた私にも、共感できることもありますし、整備業界の悪いところはたくさんあると認識しています。
一方で、自動車整備士の仕事には魅力もたくさんあります。ここでは、自動車整備士のやりがいや魅力を再確認します。
自動車整備士のやりがい
- お客様に直接感謝される
- 整備後の達成感
自動車整備士の多くの人がこの2つをやりがいとして答えます。
自動車整備士は、お客様から「ありがとう」と直接言われることが非常に多い職業です。
例えば、生産工場などで働く人や、農業、漁業を営む人などは、お客様から直接感謝される機会はそれほど多くないかもしれません。
自動車整備士は、車の事故や故障などのトラブルで、緊迫した状況や困り果てたお客様の対応をする機会がとても多い職業であり、そのような状況でうまく対応したときに、自然とお客様から感謝され、心からの「ありがとう」をもらうことができます。
また、難解だった故障の原因を突き止めたり、エンジンの載せおろしなどの時間や手間のかかる整備の完了後には、大きな達成感を得ることができます。
自分にも、大きな達成感を得られた忘れられない整備経験がいくつもあり、いまでも鮮明に状況を思い出せるほどの、良い思い出がたくさんあります。整備士であれば、誰しもが経験のあることなのではないでしょうか。
さらに、自動車整備士の毎日の仕事は、単調ではありません。
整備する車は、車種や年式、走行距離などが違い、それぞれの車のいろんな部品を整備することになります。毎日の仕事に一つとして同じ整備・修理はなく、一定の新鮮さがあります。
自動車整備士は、次から次へといろんな車の整備をしていき、一つ一つ解決させ、その都度自分もスキルアップしていく仕事であり、毎日、大小の達成感を得ることができる仕事です。
自動車整備士という職業のメリット
- 仕事に困らない
- 田舎や実家の近くにも必ずある
- 働きながら国家資格を取得できる
- 自分・家族の車の経費を大幅に節約できる
全国に92,000工場も存在(コンビニより多い)する自動車整備工場は、どんな田舎にもあります。また、整備士の人材不足などの理由により全国的に求人が増えつつあり、待遇も徐々に上がってきています。求人倍率は4を超え、完全な売り手市場です。資格や経験があれば、どこに行っても仕事に困るようなことは無いと言えます。
その他、自分で自動車の整備ができるようになり、自分や家族の車にかかる経費を大幅に抑えることができるという経済的な魅力もあります。
自動車整備士の魅力についてはこちらの記事で詳しく書いています。
>>>自動車整備士のやりがい・魅力・メリットを元ディーラーの一級整備士が解説
自動車整備士の転職
自動車整備士の転職理由は、上述したとおり、給与の低さや過酷な労働環境が理由になることが多いようです。とりわけ、ディーラー以外の民間整備工場で働く整備士は、将来性や給与面に不満を持っている人が多いと言われています。
さらに、整備士の肉体労働という仕事柄、年齢的な不安を持つ人も多く、30代あたりから、転職を希望する人が多くなる傾向にあります。
自動車整備士の転職で最初に考えることは
整備士として再就職か、他業種に転職か
どちらにも、メリット・デメリットがあるので、慎重に考えたいところですが、近年は整備業界での再就職を考える人が減っていると言われています。
他業種に転職するメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
整備士として転職 | 資格・経験を活かせる | 待遇・労働条件が大きく変わるかは疑問 |
他業種へ転職 | 待遇・労働条件が大きく変わる期待 | 資格・経験を活かしにくい |
他業種といっても、転職する業界や企業に依存するのでなんとも言いにくいですが、資格・経験が100%活かせるのは間違いなく整備士として再就職することです。
このことはあらためて認識したほうが良いでしょう。
整備士におすすめの転職先と新しい働き方
転職するならば、自動車整備士の資格や経験が活かせる職業が理想的です。転職活動にも有利に働き、最初から待遇を上げてもらえる可能性もあります。
自動車整備士からの転職先としておすすめは下記5つです。
- 製造業(工場勤務)
- 損保アジャスター
- 先生や講師
- 自動車の営業職
- ドライバー
そして、さらに検討したいのは2つの新しい働き方です。
- フリーランス整備士
- 派遣整備士
おすすめの転職先と新しい働き方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
>>>【自動車整備士の転職先】異業種のおすすめや転職で失敗しないためのコツと方法
転職成功は求人情報を見ることから
- 今ではないが、いずれ転職したいと考えている・悩んでいる
- 良い企業からアプローチがあれば転職を考えてもいい
あなたもこのように考え、ただモヤモヤと日々を過ごしていませんか?
もちろん、転職には不安やリスクが常につきまとい、特に、家庭のある男性整備士であれば、なおさら不安や恐怖と戦わなくてはなりません。そのような不安や恐怖から、なかなか転職活動に踏み切れないでいる人も多いのではないでしょうか。
しかし、やはりそのような状態では何も改善されません。転職の話は、自分から動かない限り、そうは沸いて出てくる話ではなく、なんらかの行動に移すことが重要です。
幸いに、現在はインターネットを利用して誰でも簡単に求人情報を収集をすることができます。自分にどのような条件の転職先があるのか、自分の客観的な価値はどのくらいなのかを調べることができます。
転職(求人)サイトで求人情報を検索する
スマホで求人情報をながめるだけなら、ほとんどリスクがありません。あまりよい感触が得られなければ、転職しないのも良し、うまくやれそうな感触を得られれば、本気で考えるのも良しです。
過去の自分のように、デメリットや失敗を意識しすぎて何も行動に移さないのはダメです。何も解決せず時が経つだけです。
自動車整備士の4つの転職活動方法
- 転職サイト→最も手軽
- 転職エージェント→高待遇に期待
- 知人・友人の紹介
- ハローワーク→あまりおすすめしない
昔に比べ、現在は、どの職種においても転職希望者が増え、転職成功率も上がりました。
そんな現在の転職活動は、インターネット上のサービスを利用する人が圧倒的に増えています。転職を考える日本人の9割以上が転職サイトに登録していると言われています。
次のようなイメージで転職サービスを利用する人が多いです。
- 無料転職サイトは必ず複数登録→リスクなし
- 実際に転職したくなれば転職エージェントで好条件を探してもらう
- 初めてなら大手サイトに登録するのが無難
※気軽に登録ができる転職サイトであれば、複数のサイトに登録することをおすすめします。選択肢が増えれば、良い会社に出会える可能性が高くなります。
転職活動の方法についてはこちらの記事に詳しく書いています。
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整備士の転職・退職理由まとめ
- 賃金の条件がよくなかった
- 労働時間の条件がよくなかった
- 休日・休暇の条件がよくなかった
- 自動車整備業を続けていくことに対して魅力・安定性を感じなかった
- 賞与がなかった・少なかった
自動車整備士の転職理由を見ると「自分自身のキャリアアップの為」などの、ポジティブな考え方で転職を希望する人は非常に少なく、「もうこんな仕事や環境は嫌だ」と、ネガティブに考えている人が多いことがわかります。
また、自動車整備士が転職を希望する場合、「自動車整備士として、違う整備工場に転職する」のではなく、「自動車整備士を辞め、異業種に転職する」人が多いという特徴があります。その中には国家資格を取得している整備士も、もちろんたくさんいます。
おそらく、「自動車整備士をやっている以上、どこにいってもそれほど変わらないだろう」と考えている整備士が多いためですね。この闇は深いです。特に「整備士としての未来が不安」と感じた整備士は、もう整備士には戻って来ないのではないでしょうか。
以上、自動車整備士が転職・退職を考える理由でした。