自動車用エアコンの冷媒が「134a」から新しいものに変わることをご存知ですか?
この記事では、近年話題になっている新しい冷媒「HFO-1234yf」について、1級整備士の私が整備士向けに簡単にご説明します。
整備士の方、一度読んでみてください。3分で役立つ知識です。
[icon name=”check” class=”” unprefixed_class=””]この記事の内容
新冷媒が必要な理由と背景
まずはじめに、簡単に自動車用エアコン冷媒の歴史を振り返ってみます。
自動車にコンプレッサー式のエアコンが誕生し、その冷媒としてフロン(CFC12)が使われ始めました。ところが、1970年代にオゾン層破壊の問題が取り上げられ、フロンはその原因のひとつであることがわかり、国際的に代替フロンの開発・実用化が急がれました。
1980年代後半にはCFC12は、国際的に製造・輸入が禁止され、その代わりに「代替フロンHFC134a」が使用され始めます。
また、このとき日本ではCFC12を含む特定フロンを1996年までに全廃(新型車には使用しない)することとなりました。そして代替フロンHFC134aは、オゾン層を破壊しにくいため、世界のほぼ全ての車両が使用することとなり今日にいたっています。
やはり適正な取り扱いが必要であり、日本においては、自動車リサイクル法により規制を受け、自動車の最終所有者がフロン回収処理に掛かる料金を負担しています。
そして、近年の環境問題に対する国際的な気運の高まりから、代替フロンHFC134aよりもっと環境負荷の少ない新冷媒の開発・実用化がせまられています。
EUの自動車が新冷媒HFO-1234yfへ
前述したような国際情勢を受け、EUでは自動車エアコン用冷媒の規制強化に踏み出し、2013年1月以降に販売される新型車については、GWP(地球温暖化係数)が150を超える冷媒の使用を規制しました。
これまで使用されていた代替フロンHFC143aのGWPは、およそ1,300(規制値の10倍近く)であり、事実上HFC134aの使用ができなくなりました。
今現在、EU諸国の新型車にはこのHFO-1234yfがすでに搭載されて販売されています。
そのため、日本国内でも一部の輸入車において搭載され流通し始めています。
アメリカの自動車が新冷媒HFO-1234yfへ
自動車における環境問題に対して、世界一厳しい規制を設けるアメリカ(カリフォルニアを中心として)では、前述したHF-1234yfを搭載する自動車を販売すると、米国環境保護局(EPA)のクレジットを得ることができるため、近年爆発的に普及すると見込まれています。
EPAのクレジット制度(ZEV規制)とは、電気自動車などの環境に優しい自動車をたくさん販売した自動車メーカーを経済的優位に立たせ、逆に環境にやさしくない自動車をたくさん販売している自動車メーカーに対して巨額の罰金を課す仕組みであり、結果的に環境にやさしい自動車を増やす政策です。
この制度は自動車メーカーによっては大変に厳しいものであり、日本の自動車メーカーも最近は苦戦を強いられています。自動車を売れば売るほど赤字が出る状況にもなりかねないもので、カリフォルニア市場からの撤退を余儀なくされる自動車メーカーもあるくらいです。
一方で、この制度によって巨額の利益を生み出したのが、電気自動車専門のベンチャー企業であるテスラモータースであることは、あまりにも有名です。
具体的には、環境にやさしい自動車を販売するとクレジットがもらえ、やさしくない自動車の販売にはクレジットを引かれます。最終的にクレジットがマイナスになると巨額の罰金制裁が課せられます。
さらにアメリカでは、極めて近い将来にEUと同じようにHFCの完全撤廃を検討しています。
HFO-1234yfとは
さてこの新冷媒HFO-1234yfとはどんなものか簡単に説明します。
特性はHFC134aととても似ており(同等の性能を有する)、それでいてGWP(地球温暖化係数)が1以下と極めて低く、次世代冷媒の最有力候補となっているものです。
HFC134aのGWPが1,300なので、HFO1234yfは実に1,300分の1以下であり、EUで規制されるGWP150以下を完全にクリアします。
一方で、この冷媒はわずかながら可燃性があり、取り扱いや安全規制に課題があります。
[icon name=”check” class=”” unprefixed_class=””]新冷媒 HFO1234yf の課題
・事故時の車両火災の原因になる可能性
・解体時の取り扱い
・整備時の取り扱い
・保管時の取り扱い
・運搬移動時の取り扱い
しかし、課題はあるものの、アメリカのデュポン社やハネウェル社を筆頭に、日本でも旭硝子などが開発・実用化しており、普及がすすめばコストダウンやさらなる技術革新が進み普及することは間違いないでしょう。
日本はどうなる
さて、日本の状況について説明します。
日本では2023年にEUと同じ基準(GWP150以下)に規制されることが目標とされています。
つまり、2023年以降の新型車に今現在使用されているHFC134aが搭載できないことを意味し、EUやアメリカに遅れて同じ基準にするということになりそうです。
また、自動車メーカーはHFC134aの搭載車が、既に規制が始まっているEUやアメリカで販売できなくなるため、その規制が始まる前から次々と新冷媒を導入すると思われ、その搭載車はこれから一気に加速していくはずです。
現にトヨタはアメリカで販売しているタコマやレクサスに既にHFO-1234yfを搭載しています。もう国内で販売される日本車へのHFO-1234yfの導入は必然となっています。
冷媒変更による業界への影響
冷媒が変わることに対する整備工場の影響は、次のようなものが考えられます。
影響1:HFO1234yf 対応設備の導入が必要
新冷媒はHFCと特性こそ似ているものの、回収再生充填器やゲージマニホールド等の整備機器を共有することができません。
この新冷媒を扱う整備工場は、決して安く無い設備投資が必要です。
特に板金工場では、その取り扱いの多さから、まっ先に導入する必要があり、整備工場の負担が増えることとなります。
デンソーでは既に国内向けに新冷媒の回収再生充填器等(100万円程度)を販売し始めています。
↑ denso 1234yf用回収再生充填器
影響2:冷媒の料金が高額
今現在この冷媒(缶売り)はHFCと比べて5倍~8倍程度の料金です。ガスが高いんです。
整備工場への影響と言うよりは、ユーザーや保険会社への影響が大きいと思われます。でも、需要が増えればこの値段は下がっていくのでそれほど心配要らないのかもしれません。
HFO1234yf の時代がくるとは限らない!?
これからは新冷媒HFO1234yfの時代が長く続くだろうと思われました。
ところが2017年、ダイムラー社では全く新しい冷媒CO2冷媒の車両を開発したと発表しました。今後ダイムラー社ではこのCO2冷媒を搭載していくというものです。
EUやアメリカの基準ではGWP150以下という規制があるだけで、それはHFO1234yfでなければいけない訳ではありません。条件を満たせばその他の種類の冷媒でも問題ありません。
今現在はHFOは次世代冷媒の最有力候補と言えそうですが、将来的にはどうなるのかは不明確で、当然そこには自動車メーカーや国や企業の思惑があることも間違いありません。
今後、このカーエアコン冷媒情勢がまた変わる可能性が十分にあります。整備工場や板金工場を営む人は、常に新しい情報の入手が必要です。
以上、自動車用エアコンの新冷媒HFO1234yfについてでした。
追記 ついに新冷媒HFO-1234YFが大衆車に搭載
レクサスなどの高級車や海外向けモデルに搭載が進んでいたカーエアコン用新冷媒HFO-1234YFがついに日本向けの大衆車に搭載されました。
※2020年2月現在、ホンダ・フィット、ダイハツ・タントに搭載されるなど、続々と搭載されています
これにより、国産車への新冷媒の搭載が一気に加速すると思われます。
新型クラウン
気になるのは国内の整備工場で新冷媒の整備が、今現在可能なのかどうかです。
HFO-1234YF搭載車の整備は、従来の設備では対応できません。専用のゲージマニホールドや充填機が必要だからです。
しかし私の感覚でいうと、ディーラーを除く99%以上の整備工場では、専用の設備を持っておらず、ガスの充填等の作業ができません。ディーラーでもそれほど多く導入が進んでいる訳ではありません。
しかし、搭載車両を販売するディーラーでは、設備投資せざるをえなくなります。
それでも100万円ほどする充填・回収機を全拠点に配備するのはなかなか難しいと思いますので、規模の大きな店舗だけ(本社だけ等)ということになるのではないでしょうか。
特に自動車鈑金業を営む方や、車体整備士の方は今後これら新冷媒を搭載した車両の事故修理が入庫した場合のために、その時の対応を少しづつ考えておいたほうがいいかもしれませんね。
自動車整備業界もいろいろと難しい世の中になりました。
整備士のみなさんも、いろいろと新しい情報を入手して、一緒にがんばりましょう。
[icon name=”check” class=”” unprefixed_class=””]チェック
新型クラウンやカローラスポーツを購入した一般ユーザーの方もこの記事をお読み頂いているかもしれませんので、一応説明します。
「新しい車のエアコン修理なんて、まだ必要ないのではないか」と思う方もいると思いますが、「必要」です。ひとたび新型車が世の中に出てしまえば、事故がおきます。
事故が起き、エアコンシステムにダメージがあれば、エアコン修理、ガスの充填という仕事が必要になってきます。つまり、今現在いつ新冷媒の整備が必要になるのかわからない状況なのです。
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