- 近年の合格率平均:36.7 %
- 令和3年3月実施:61.1 %
国家試験である1級整備士(筆記試験)の合格率は、2級・3級の試験に比べてもかなり低いので、ハードルが高いと言わざるを得ません。
難関である一級整備士の取得を目指すなら、試験のことを良く知る必要があります。
この記事では、自動車整備士最高峰の資格である一級小型自動車整備士の筆記試験の合格率と難易度について、数字からは見えてこないものも含めて、経験者である筆者が詳しく説明します。私が合格したのはもう10年以上前ですが、毎年問題を確認してしますので、ぜひ参考にしてください。
一級整備士取得を目指す人は必見です。
- 一級整備士学科試験、近年の合格率
- 受験者による合格率の違い
- 合格率が低い理由
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
一級小型自動車整備士の試験は、学科試験と実技試験があり、学科試験の中には筆記試験と口述試験があります。この記事はその中の最初の関門である「筆記試験」についての説明記事です。実技試験については”実技試験の実施状況や合格率”をご覧ください。
一級小型自動車整備士筆記試験の合格率
それでは(一社)日本自動車整備振興会連合会(日整連)が公表している、平成22年から令和3年まで(過去13回)の1級小型自動車整備士試験(筆記)の合格率を紹介します。
- 合格率の平均:36.7%
- 近年合格率が上昇
試験年月 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
R3年3月 | 2,529人 | 1,545人 | 61.1% |
R2年3月 | 2,825人 | 1,489人 | 52.7% |
H31年3月 | 3,403人 | 1,676人 | 49.3% |
H30年3月 | 3,563人 | 823人 | 23.1% |
H29年3月 | 3,318人 | 744人 | 22.4% |
H28年3月 | 3,376人 | 1,274人 | 37.7% |
H26年3月 | 3,216人 | 1,016人 | 31.6% |
H26年3月 | 3,448人 | 1,489人 | 43.2% |
H25年3月 | 3,470人 | 1,362人 | 39.3% |
H24年3月 | 3,685人 | 1,261人 | 34.2% |
H23年6月 | 65人 | 22人 | 33.8% |
H23年3月 | 3,296人 | 752人 | 22.8% |
H22年3月 | 3,561人 | 931人 | 26.1% |
平均 | 36.7% |
その年によって合格率にばらつきがあるのは、試験問題の難易度によるものだと思われます。
近年極端に合格率が上がっています。何らかの理由で、合格率を上げるように操作されている可能性がありますが、理由はわかりません。
受験者の種別による合格率の違い
専門学校卒業者は合格率が高い
日本自動車整備振興会が公開している合格率のデータには見えてこないものがあります。
それは受験者の種別による合格率の違いです。
専門学校等の一級課程卒業した人の合格率と、一度社会人となって働きながら受験する人の合格率が大きく違うため、分けて考える必要があります。
受験者別の合格率
- 専門学校等で一級整備士課程を卒業した人
- 働きながら整備振興会の講習を受けた人
- どこの講習所にも通わず、自分で勉強した人
日本自動車整備振興会のデータは、この3つの受験者全ての人の合格率ですので、それぞれを分けて合格率を解説します。
専門学校等で1級整備士課程を卒業した人の合格率
専門学校卒業者の合格率は40~70%
例えば30年度の全体の合格率は23.1%ですので、専門学校等卒業者は合格率を大きく引き上げていることになります。
1級の筆記試験を受ける受験者の70%くらいの受験者が、専門学校や大学の1級整備士課程を卒業した人です。
専門学校等の一級整備士課程では、二級整備士に合格した後、さらに2年間就学することで一級取得を目指します。2年間学校で集中して勉強しますので、それ以外の人よりも当然合格率が高くなります。
この40~60%の合格率については他の受験者と比べると高いことは間違いないですが、別の言い方をすると、専門学校等に2年間就学しても4~6割の人が合格できないとも言えます。
専門学校等に就学したとしても、この筆記試験に合格できなければ一級整備士となることはできず、それに掛けた時間とお金は泡と消えてしまいます。
他業種の国家試験と比べても、専門学校等に進学し、目的となる資格が取得できない人が4~6割もいる資格はそれほど多くは無いと思いので、それだけ取得の難易度が高い資格であると言えます。
専門学校等を卒業していない人の合格率
25 %以下
働きながら整備振興会の講習を受けた人や、講習にも通わず、自分で勉強した受験者の合格率は25 %以下です。
近年の平均の合格率は36%ですが、専門学校生が大きく合格率を引き上げていて、社会人が引き下げているということになります。
もうすでに社会人となっている整備士の人にとって、一級の筆記試験は難しい試験となっています。
なぜ一級はそれほど合格率が低いのか
一級整備士の合格率が低い理由には、次のようなものがあります。
- 合格率を低く設定している
- 合格ラインが高い
- 出題範囲が広い
- 必ず新しい問題が数多く出題される
合格率を低く設定している
最大の要因は、そもそも出題者(国)が、合格率が低くなるように設定しているからではないかと考えられます。
整備士最高峰の資格である一級小型自動車整備士の筆記試験の合格率を、二級や三級などの資格と区別して考えている可能性があります。
しかし、近年大幅に合格率を引き上げている可能性があります。詳しくは後述します。
合格ラインが高い
筆記試験の合格ライン:80%以上の正解
一級筆記試験の出題数は50問で、そのうち40問正解で、合格となります。
2級や3級整備士、その他の整備士の資格も全て合格率は70%ですので、一級は単純に合格ラインが高く設定されています。
出題範囲が広い
2級や3級に比べ、教科書が多く、ページ数も多い
整備士の試験には公式の教科書があり、試験問題はその教科書の中から出題されると決まっています。
教科書の内容を全て網羅するように勉強すれば、必ず合格できます。そのことは一級でも同じです。
しかし、一級の教科書の数は他の種目よりも多く、さらにページ数もかなり多い分厚いものになっているため、出題範囲が広く全てを網羅する事がなかなかできないという難しさがあります。
また、技術的な知識ではない「地球環境に関する問題」などの出題があることも、ネックとなっているのかもしれません。これまで地球環境や工場の管理に対する勉強をしたことが無い人が多いからです。
参考までに、一級の教科書の種類は次の5冊です。
- ガソリンエンジン
- シャシ
- 新技術
- 環境保全・安全管理
- 法令
必ず新しい問題が数多く出題される
過去に出題のない問題を多く出題
過去に出題のない新しい問題が多くなると、合格率が下がります。逆に、新しい問題が少ないと合格率が上がります。
出題者側は、主に過去問の出題数で合格率をコントロールしています。
一級の試験は、合格率をある程度低くしたいという出題者側の考えがある為、二級や三級の他の種目に比べて、過去に出題のない新しい問題が数多く出題されます。
新しい問題は過去問を完璧に暗記しても解くことができず、教科書の内容を本当の意味で理解していなければ解くことが出来ません。これが毎日勉強している専門学生でも4~6割の人が合格できない最大の理由です。
また、これまで30%程度だった合格率が、突然90%になってしまうようなことは絶対あってはいけませんので、毎回新しい問題を数多く出題し、合格率をある一定のところにコントロールしているように思います。
さらに、一級は教科書の範囲が広いため、どこからでも新しい問題を出題できるので、出題する側からすると新しい問題が作り易いとも言えます。
これから試験の難易度が変わる!?
今後、問題の難易度が下げられる可能性
個人的な意見ですが、今後も「一級の試験問題の難易度は下げられる」と私は思っています。根拠は次の通りです。
- 一級整備士数を増やしたい
- 専門学校等の団体から、働きかけがある
1.については、整備士制度のPRや一級整備士の社会的役割について、もっと価値を持たせたいと国は考えています。国家資格であるのに、一般的には「一級整備士なんて聞いたことがない」という現状があります。
2については、専門学校関係の事情です。
今現在、専門学校等の一級課程に進学しても、合格率が低いので、確実に一級の資格が取得できるとは全くいえない状況です。そのことから、一級課程に進学することを躊躇する人(親御さんも含めて)がいることは間違いありません。
一級の難易度が下がれば、合格率が上がり、一級課程に進学する生徒も増えるため、専門学校側からすると願ったりかなったりとなります。専門学校にとって、一級の難易度や合格率というのは死活問題であり、専門学校の団体は、試験のないようについて、国にさまざまな要望をしていると推測されます。
上記は、あくまでも個人的な予測です。
まとめ
- 1級筆記試験の合格率平均は36.7%
- 近年合格率が急上昇している
- 1級課程を卒業した学生の合格率は40~60%
- 社会人の合格率は25%以下
- 合格率が低いのは、そもそも国がそう設定しているから
- 今後難易度が下げられる可能性がある
以上、一級整備士の合格率や難易度についてでした。