自動車整備専門学校に通うべきか
自動車整備士になるには、整備士の専門学校に行く方法と、働きながら資格を取る方法があります。しかし、必ずしも専門学校で資格を取ることが最善とは言えません。
この記事では、これから整備士の専門学校で自動車整備士の資格を取ろうとしている人や、その親御さんのために、学校で2級の資格を取るメリット・デメリットについて、一級整備士の管理人の経験を踏まえてわかりやすく説明します。
この記事を読んで、本当に専門学校に行って良いのかを改めてしっかり考えてみてください。
- 自動車整備専門学校のメリット・デメリット
- 働きながらでも十分整備士になれる
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
専門学校で取得できる整備資格
高校を卒業してから専門学校等に行くことで、2級又は1級整備士の資格を取得することが出来ます。
この場合、高等学校の自動車科等を卒業し、既に3級自動車整備士の資格を持っている人と、普通校などを卒業して、まだ資格を何も持っていない人がいますが、どちらも2年間の学校生活で2級の資格を取得できます。
そして、卒業すればみんな同じ二級が取得できるので、それまで全く車について勉強したことがない人であっても何も問題ありません。
2級については、ガソリン自動車とジーゼル自動車の資格がありますが、2年間の通学でどちらも取得できます。
1級については、2年間で2級ガソリン・ジーゼル自動車整備士の資格を取得した後に、専攻科という形でさらに2年間通学することで取得する事ができます。
さて、これまで説明した中で、「取得できる」という言葉を何度も使っていますが、実はこれは間違いです。専門学校にいっても取得できない場合がありますのでその理由を次に説明します。
専門学校に通っても必ず資格が取れるとは限らない理由
自動車整備士の資格は学科試験と実技試験の2つの試験に合格しなければ取得できないから
専門学校を卒業すると、実技試験が免除されます。学科試験は免除になりません。
生徒は専門学校を卒業した後に、学科試験を受験する事になります。そうなると、中には合格できない人が出てきます。それが、必ず取得できるとは限らない理由です。
実際に、専門学校を卒業したのに資格を取れなかった整備士は、少ないですが存在します。
2級整備士筆記試験の合格率
>>>整備士の合格率や難易度を一級整備士が徹底解説【2級整備士】
専門学校で資格を取ること3つのメリット
- ディーラーに就職できる可能性が高い
- 早く2級整備士の資格が取れる
- ほぼ確実に合格できる
1.ディーラーなどの大きな企業に就職できる可能性が高い
ディーラーなど比較的規模の大きな整備工場では、2級整備士、または1級整備士のみを募集している、もしくは優遇されることが多いです。
3級より2級整備士の方が技術力が高いからと思うかもしれませんが、実はそうではありません。
2級整備士が欲しい主な理由は、早く検査員になれるからです。
無資格や3級整備士から自動車検査員になるためには、2級整備士以上の資格を取得している必要があり、はじめから2級の資格を持っている専門学校卒の人材は大変貴重な存在です。
自動車検査員とは
自動車検査員とは、車検時にお客様の車を、国の自動車検査員に代わって検査できる人を言います。
ディーラーなどの比較的大きな整備工場は、国の検査場に車を持ち込まなくても、自分たちで検査することを認められている工場です(指定工場といいます)。この指定工場では、自動車検査員の資格を持った人材を数多く必用としていて、検査員が不足する事態は、検査を自ら行う指定工場では死活問題であり、常に次の検査員を育成していかなければなりません。
しかし、検査員になるためには、次のようなステップがあります。
- 資格無しで入社してから1年後→3級の試験に合格
- 3級を取得してから3年後→2級の試験に合格
- 2級を取得後整備主任者の経験を1年以上→検査員試問(試験)に合格
資格無し、または3級整備士を雇う場合と、初めから2級整備士を雇う場合では検査員までの期間が大幅に変わるため、比較的大きな整備工場では、より早く検査員になることができる2級整備士が欲しいのです。
2.早く2級整備士の資格が取れる
- 資格無しで入社してから1年後→3級の試験に合格
- 3級を取得してから3年後→2級の試験に合格
資格が無い状態で、仕事をしながら2級の資格を取るためには、上記のステップがあります。
専門学校に行かずに、働きながら資格を取る場合、最短でも5年程度必用です。専門学校に通えば2年で2級です。これは大きなメリットです。
3.ほぼ確実に合格できる
専門学校を卒業した人の、学科試験合格率は95%以上
先生たちは試験に合格するためのノウハウをすべて持っていて、教材や勉強方法や過去の問題など、すべて与えてくれます。ほとんどの人が問題なく試験に合格します。
一方で、仕事しながら勉強することは大変なことです。ましてや、家庭を持ち、子供がいればなおさら大変でしょう。その点、専門学校を卒業すればほぼ全ての人が資格を取れます。
関連記事>>>2級整備士資格の難易度や合格率を詳しく徹底解説
専門学校で資格を取ることのデメリット
- お金がかかる
- 技術力はあまり身につかない
1.お金が掛かる
自動車整備士の専門学校はとてもお金が掛かります。また、通える範囲にないことも多く、寮やアパートなどの生活費も掛かるでしょう。
専門学校にかかる費用についてはこちらの記事でまとめています。
2.技術力はあまり身につかない
残念ながら専門学校では、それほど技術は身に付きません。
自動車整備士の資格は、本来実務経験に伴って受験資格が与えられ、働きながら時間を掛けて取得していくものです。そうすることにより知識と技術力を持った整備士になることができます。
学校の教室や実習場などで2年間過ごす事と、実際の整備工場で仕事をしながら2年間過ごす事では、技術力が全く違うことは容易に想像が付くと思います。どの業種でもおそらく同じではないでしょうか。
もちろん、本人のやる気の問題もありますが、私の場合は2級の資格は難なく合格し、ディーラーに就職しましたが、オイル交換もろくにできない2級整備士でした。「専門学校で資格を買ってきた奴」と、昔はよく言われたようです。
でもこれはある程度はしょうがないことです。そもそも学校で高い技術力を身に付けることは、誰であっても難しいでしょう。専門学校は資格を取る学校だと割り切りが必要です。
技術がなくても気にしない
ディーラーの整備士の多くは、専門学校等で2級の資格を取っています。最初に技術が無くても心配いりません。問題は就職してからのがんばりです。
専門学校で2級整備士の資格を取るべきか
ディーラー就職を目指すなら、学校で取ることがおすすめ。それ以外は無理して取得するメリットは少ない。
ディーラーに就職する事は、若いときでなければ難しく、そのチャンスはそう多くはありません。ディーラーに就職すると、様々な研修を受けることで、他では身に付けることができない技術や知識を身に付けることができます。
ディーラー以外の整備工場では技術を身に付けられない訳ではありませんが、ディーラーが新人を育成するために使う費用や時間は、他の整備工場を圧倒します。
ディーラーで一人前になった後に、他の整備工場に勤務することは十分可能ですが、その逆はあまり期待できません。そんなディーラーに就職することを考えているのであれば、私は専門学校で2級整備士の資格を取ることをおすすめします。
一方で、ディーラー就職を考えていない場合、無理して学校に通うメリットは少ないです。
純粋に車の知識や技術を早く身につけたいのであれば、2年間も学校に通うより、早く仕事をした方がいいです。整備士の資格は、働きながら取得することができます。
例えば実家の整備工場で働くことが決まっている場合など、ディーラーなどの大きな整備工場に就職することを考えていない人もいると思います。その場合は、専門学校に入るメリットが低くなります。
専門学校は、一言で言えば、お金をかけて、早く2級の資格を取るための学校です。専門学校で2級の資格を取った20歳と、2年間働いて3級を取った20歳では、圧倒的に後者の「3級整備士」の方が実力は上です。ゆっくりと実力のある2級整備士になっていけばいいと思います。
近年の状況変化
二級を持っていなくても(専門学校卒でなくても)ディーラーに就職が可能に
近年、整備士の人材不足がすすみ、専門学校の生徒も少なくなっていることから、ディーラーも2級整備士だけを採用できなくなっています。つまり、2級整備士の資格を持っていなくても、ディーラーに就職することが可能になってきました。
これからもその傾向はすすんでいくと思われます。そうなれば、高いお金を払って無理して専門学校に通う必要があまりなくなってきます。ディーラーに就職してしまえば、給料をもらいながら様々な研修を受けさせてくれ、もちろん資格も取らせてくれます。
仕事しながら資格を取ることは大変ですが、学校で技術の無い2級整備士の資格を取るよりも、先に就職して、早く技術を身に付ける方がよいという考え方も成立します。
いずれにしても、ディーラーでは2級整備士の方を採用したい訳ですので、学校に通うに越したことはないと思うのですが、無理してまで学校に行くこともなくなってきているかもしれません。
最後に:引く手あまたの自動車整備士
現在整備士が不足していて、多くの求人があります。
原因は若者の車離れ、職業選択肢の多様化、団塊の世代の引退などが上げられますが、自動車整備業界にとっては、とても大きな問題です。現在の求人を見てもらえばわかりますが、整備士の求人は山ほどあり選び放題です。
そんな中、自動車業界では待遇改善などの活動がこれからどんどん進むと思われます。今まであまり良いイメージではない自動車整備士の仕事も、これからは少しずつ改善されることは間違いないと思います。なぜなら、待遇の悪い企業に就職する人がいなくなるからです。
まとめ
- 絶対にディーラーに就職したいのであれば、専門学校で2級の資格を取ることが理想ですが、そうでない場合は、無理してまでいく必要はない。
- 近年は専門学校に行かなくても、ディーラーに入るチャンスは十分にある
自動車整備士の資格は、働きながら取得することができます。専門学校等に入学すると、より早く資格を取得できますが、多くのお金がかかります。
ディーラーに就職することなどをよく考えて、専門学校に就学することを改めて考えましょう。
以上、整備士の専門学校の必要性についてでした。