この記事では、これからの自動車整備士に必要なスキルや能力について、元ディーラーの一級整備士が解説します。
技術的な内容も含みますが、特にこれから整備士を目指す人や若い整備士さんは、ぜひ参考にしてください。
「これからの自動車整備士に必要なこと」
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
自動車整備の高度化・環境の変化
経験で直す時代からコンピュータによる分析・診断に
現在の自動車整備は「勘や経験で直す」時代から、「コンピュータで分析・診断する」の時代に移り変わってきています。
「ECUの書き換え作業」、「リアルタイムデータ分析による故障診断」、「エーミング作業」など、スキャンツールやサーキットテスタ、電子マニュアルが必要となる整備が増え、長年の経験による技術だけでは対応できない作業が増えています。
このような作業が、これからもずっと増え続けることは間違いありません。
これからの整備士に必要なスキル

- スキャンツールに対応する能力
- 整備マニュアルを活用する能力
- 技術情報収集能力
1.スキャンツールに対応する能力
現在の自動車にはシステムごとにたくさんのコンピュータが搭載されており、それぞれが自己診断機能を持っています。
自己診断機能とはOBDとも呼ばれ、自らのシステムについて常に監視し、装置が故障したときにはドライバーに故障を知らせるための警告灯を点灯させたり、故障の種類を表すコード(故障コード、DTC)を記憶する機能です。
これらの自動車に搭載されたコンピュータの情報を呼び出すためには、自動車専用の通信用コンピュータ(スキャンツール・外部故障診断機)を車両に接続し、車両のコンピュータと通信する必要があります。
スキャンツールの機能には、車両の状態をリアルタイム表示する「データモニタ機能」や、整備を補助してくれる「作業サポート機能」、モーターの作動テストなどが行える「アクティブテスト機能」などがあり、現在も、次から次へと機能の充実が図られています。
これらの機能は、適切な場面で正しく利用する事で、確実な診断、時間の節約、さらに信頼性の確保など整備士や整備工場の生産性を大きく向上させます。
また、スキャンツールを使用しなければ、そもそもできない作業が数多く存在する事からも、今現在においてもスキャンツールは文字通り「無くてはならないもの」になっています。
2.整備マニュアルを活用する能力
今現在、国産車メーカーが作成した整備マニュアルは、有料の電子マニュアル「FAINES(ファイネス)」で全て閲覧する事ができます。
ファイネスを利用すれば、どんな整備においても自動車製作メーカーの指定した確実な方法で修理や点検を実施する事が可能です。これは、20年前には考えられないほど便利なことで、活用しない手はありません。
しかし、そのような素晴らしい整備マニュアルがいつでも閲覧できるのにも関らず、今はまだ、マニュアルを見ないで整備する整備士がたくさんいます。また、見てもそのとおりに出来ない整備士はもっと多くいます。これは非常に残念なことです。
たしかに、整備マニュアルは一見無駄が多かったり、見にくい部分もたくさんあることは事実ですが、それをよく見て理解する事で、そのシステムについての理解を深めることができます。結果的に不具合の発見に近づきます。
この多様化した自動車の中で、整備マニュアルを見ずに、これまでどおり勘や経験で整備することはとても恐ろしいことであり、重大な整備不良や、トラブルの原因になりかねません。
「整備マニュアルを良く見て、書いてある内容を理解し、故障診断をすること」これがこれからの整備士に求められる能力です。
一見あたりまえのようですが、これを実施できない整備士は実に多いという現状があります。
3.技術情報収集能力
整備士は新しい技術に対応する為に常に新しい情報をつかんでおかなければなりません。自動車の進歩はとてつもなく早いのです。
その為には、様々な場所にアンテナを張っておく必要があります。たとえば新型車の講習会や技術的な研修への参加、雑誌の講読などです。そして、これら情報収集にはお金や時間がかかります。
しかしそれは整備士にとって必要なものです。「お金や時間を掛けて最新の情報を収集する」これからの整備士は、この感覚をつかめるようにならなければなりません。
また、これは整備業界以外の全ての業界においても同じことが言えます。
ベテラン整備士を追い抜こう
これからの整備士に必要な能力の高さは、必ずしも自動車整備の経験値とは比例しないので、一定の分野においては経験の少ない整備士が、ベテラン整備士の能力を超えることが可能です。
これはスマートフォンをイメージすればわかりやすいです。10代の若者が、人生経験が豊富なシニア世代よりもスマホの機能を使いこなすのと同じで、自動車整備の経験がなくとも、スキャンツールを使いこなすことができます。ファイネスも同様です。
自動車との通信方法は車にコードや端末を接続するだけですし、操作に関してはスマートフォンと同様で非常に簡単で、多くの若い人には全く苦にならないはずです。
難しいのは「いつどの場面でどんな機能をどのように使うか」です。これにはスキャンツールの全ての機能をくまなく知っておかなければなりません。
例えば、スキャンツールを使用して診断すれば3分で可能な診断を、その診断方法を知らないために、わざわざ部品を車両から取り外し、1時間掛けて点検してしまうことも十分あり得ます。
スキャンツールを使いこなすには、幅広い知識と訓練が必要ですが、これまでのように、実際に手足を動かして「技術を磨く」のではなく、「頭を磨く」ようなものです。
極端に言うと、腕を磨いて、経験を積んで熟練された整備士ではなく、頭を磨いてスキャンツールを使いこなす整備士こそが、これからの自動車整備に対応していくと言えます。
上記が、若者がベテラン整備士の技術を超えることができる理由です。
まとめ
これからの整備士に必要な能力は以下のとおり。
- スキャンツールに対応する能力
- 整備マニュアルを活用する能力
- 技術情報収集能力
これらは、全て根っこでつながっていることがわかると思います。「早く経験を積んで一人前になれ」と言われると無理ですが、これらの能力は自分の努力次第で習得できるものです。
若い整備士やこれから整備士を目指す人は、このことを意識していればきっと整備士として成功するでしょう。
以上、これから必要な自動車整備士の能力でした。