スタッドレスタイヤの寿命は、溝の深さだけではなく、ゴムの硬さなどで判断します。プロの目から見ても夏用のノーマルタイヤに比べて寿命や交換時期の判断は難しいです。
この記事では、スタッドレスタイヤの寿命や適正な交換時期について一級整備士が解説します。長年、積雪地での事故やスタッドレスタイヤの性能について得た経験を基に書いています。
この記事を書いた人:きりん
元ディーラーの一級整備士で整備士ねっと管理人です。自動車整備業界に長く携わり、現在は整備業界のコンサルなども行っています。twitterでたくさんの整備士さんや業界の人と繋がっているのでチェックしていただけるとうれしいです。(seibisi_net)
3or4シーズンを目安に交換がおすすめ

多くの要素を総合的に判断すると、スタッドレスタイヤは3or4シーズン使用後の交換をおすすめします。詳しく説明します。
ポイント
- 年々、氷結路に対して効きが悪くなる
- 溝の深さは多くの場合関係ない
- タイヤメーカーがすすめる交換時期
なるべく短いサイクルで交換するのがベスト
スタッドレスタイヤは、走行距離や溝の深さに関係なく、年々効きが悪くなってきます。買ったばかりのタイヤより、1年使用したタイヤのほうが凍結路でスリップしやすくなります。
理由は、経年劣化により、タイヤ表面のゴムが固くなってきて、路面とゴムの摩擦力が弱まるからです。この事実は科学的にもわかりきっています。
しかし、そうは言っても、スタッドレスタイヤは安いものでは無いので、毎年なんて購入できないし、なるべく購入頻度も少なくしたい。そこで多くの人が迷うわけです。
「あと1シーズン履けるかな・・・」
当然のことですね。
そして、積雪地の整備士は、お客様から本当によくこの質問を受けます。
しかし、この質問に対する答えはとても難しいです。なぜなら次のような理由があるからです。
- 効きが悪いからと言って事故に直結するわけではない
- 効きが悪いとスリップ事故の可能性が高まる
- スリップするかどうかは、車種やドライビングテクニックで変わる
そう簡単に「まだ大丈夫です」「あと○年間は大丈夫です」とはなかなか言えないです。責任取れないですよね。
スタッドレスタイヤの寿命
寿命は溝の深さではなく、ゴム表面の柔らかさ(硬さ)で決まる
タイヤの寿命というと、溝の深さを思い出す人が多いと思いますが、スタッドレスタイヤの場合は、少々事情が異なります。
スタッドレスタイヤは、新品時には10mm程度の溝があり、普通タイヤ(サマータイヤ)よりも元々溝が深いという特徴があります。
そのため、 普通タイヤ(サマータイヤ) のように、明確に「溝がなくなってきたら寿命・限界」という訳ではありません。例えばブリジストンの公式HPでは、「目安として5mm程度が使用限界」とスタッドレスタイヤの溝の深さの基準が書いてありますが、「溝が十分あっても柔らかさがないと冬用として使用できません」と注意書きがあります。
もちろん溝が無ければ寿命となり交換が必要ですが、大抵の場合、溝が減るよりも早くタイヤ表面の柔らかさが失われていくので、寿命の鍵になるのは溝の深さではなくタイヤ表面の柔らかさだということになります。
ネット上で「スリップサインが見えてきてたら交換」と書いてある記事が見つかりますが、スタッドレスタイヤの場合は、スリップサインが見えるまで乗るのは狂気の沙汰です。氷上でのスリップ性能はゴム表面の柔らかさ等に影響する摩擦力にあり、スリップ事故を起こさないために最も重要な性能は柔らかさです。
柔らかさの点検
整備工場やタイヤ販売店では、硬度計という測定器を使ってスタッドレスタイヤのゴム表面の柔らかさを点検します。
可能であれば、硬度計を使った点検を実施して寿命を判断してもらうようにしましょう。

3or4シーズンサイクルの交換をおすすめする理由
- 多くのタイヤ販売店が3年程度のサイクルをすすめている
- 積雪地ユーザーの多くが3~5年程度で交換している
- コストとリスク回避のバランス
私が3or4シーズンの使用で交換をおすすめする理由は上記によります。
車もタイヤも点検しないで私が言える範囲は、やはり「3、4シーズンで交換がおすすめ」です。
もちろん、車種や運転状況により異なりますが、このサイクルなら多くの状況で、リスクを大きく低減できると思います。
実際に3~5年程度で交換している人が多いのは、統計的にスリップ事故が増えるボーダーラインがこのあたりにあるからだと思います。
実際に私個人が乗る車は4シーズン、妻の乗る軽自動車は3シーズン程度で交換しますが、これまで凍結路でのスリップ事故を起こしたことはありません。
タイヤの状態を正確に確認したい場合は、整備工場やタイヤ専門店に相談してください。硬度計を使用した点検を実施してもらい、プロのアドバイスをもらいましょう。
※何シーズン使用したかわからなくなった場合は、タイヤに表示されている記号で製造年月日を確認することができます。詳しくはページ下部を御覧ください。
10年使用するという人も
世の中には「スタッドレスなんて10年くらいもつよ」という人が時々いて、実際に10年以上使用する人はいます。
スリップするかどうかは、車種や使用状況、ドライブテクニックによるので、もちろん可能だと思います。しかし、少しでも不安に思う人はあまりに長い期間の使用は辞めておいた方がいいでしょう。かなり特殊なパターンです。
こんなときは交換時期
- 効かないと感じる、よくスリップする
- 新しく購入するか迷っている
こんな状況の場合は、3or4シーズンにかかわらず、交換をおすすめします。
1.効かないと感じる、よくスリップする
ドライバー本人が、効かないと感じていたり、よくスリップするようになったと感じるのであれば、交換時期です。これはもう迷うことはなく交換したほうが良いです。
性能を失ったスタッドレスタイヤが復活することはありません。将来起こる可能性の高いスリップ事故に近づいている状況です。
自分では感じにくい、よくわからないという人は、この判断は難しいかもしれませんが、客観的に分かる方法として、次の2つがあります。
- ABSがよく作動する
- メーター内のスリップインジケータがよく点滅する
この2つの症状は、タイヤの性能が足りないときに働く安全機能です。これらの安全機能がよく働いている場合は、スタッドレスタイヤの性能が落ちている可能性が高いです。
機能 | 症状 |
ABS作動 | ブレーキを踏んで停車しようとしたときに、ブレーキペダルに「ギギギー」「ググッ」などの振動が来るとともに、メーター内のABSインジケータが点滅 |
スリップインジケータ点滅 | 信号待ちからの発進時などに、アクセルを踏んでもうまく発進できず、メーター内のスリップインジケータが点滅する |

そもそも普段はあまり凍結路を運転しないドライバーさんの場合は、わかりようがないですね。その場合はやはり3.4シーズンを目安にしましょう。
2.新しく購入するか迷っている
「迷うけど、あと1シーズン使おうかな」「迷うけどなんとかなるだろう」と、思った場合は交換をお勧めします。これは私の整備士の経験から来ていて、多くの人に伝えたいことでもあります。
迷って、購入しない決断をしたあと、スリップ事故を起こすと強く後悔する
このようなお客様を何度も見ています。「なんでもっと強く購入をすすめてくれなかったの!」と言われたこともあります。
「あのときスタッレスタイヤを交換していれば〇〇にならなかったかもしれない」と、後悔するのは本当に辛いことです。また、不安を抱えて運転をしているのもとても嫌なものです。
スタッドレスタイヤは、大切な人の命を載せて走る車の重要な部品であることを改めて考えたいですね。
迷ったら交換する選択をすることを強くおすすめします。
スリップしにくい車・しやすい車

- 4WD(4駆、AWD)の車
- 高級車
- SUV
- タイヤが大きい車
これらの車のスタッドレスタイヤは、多少長めに使ってもリスクは少ないです。そもそもスリップしにくい車だからです。
特に新しい車になればなるほど、最新の車両制御技術が搭載されていて、滑りにくい車になっています。「車がスリップしやすいか」は、そもそもの車がもつ走行性能で大きく変わるという事実があり、スタッドレスタイヤの性能だけで決まるものではありません。
もちろん、スタッドレスタイヤが新しいに越したことはないというのは、どの車種においても同じです。
逆に注意が必要なのは、軽自動車、古い車等のスタッドレスタイヤです。上記の車と比べるとスリップしやすい車のなので、スタッドレスタイヤの性能がより重要になってきます。
また、一般に軽自動車や古い車は、事故が起きた際の安全性が低いです。
私の場合、これが理由で、妻が乗る軽自動車を3シーズンの使用で交換しています。
タイヤ製造年の確認方法
タイヤの製造年はタイヤに書いてあります
上述したとおり、スタッドレスタイヤの寿命は使用年数が鍵を握りますが「いつから使っているかなんて忘れた」という人も多いはずです。大丈夫です、タイヤに書いてあります。
確認方法は、一般の人には非常にわかりにくいです。ブリジストンの説明記事がシンプルでわかりやすいので、こちらで確認してください。
但し、製造年がわかったとしても、購入した時期や使い始めた時期が、製造年とずれている場合が多くありますので、ある程度は記録や記憶をたどるしかありません。
迷ったら安く購入する選択肢も

スタッドレスタイヤは、インターネットサイトで購入するとかなり安く買えます。無理して古いタイヤを使い続けるより、安く購入することを考えてもいいかもしれません。タイヤの値段が日に日に上がっていく現状もあります。
しかし、インターネットでのタイヤ購入は、コツや注意点があって、知らないと損をしたり、余計に手間がかかって失敗する可能性があります。そして実際に失敗するユーザーさんも多いです。特にネットで買ったタイヤの取付をどこでするのかという問題が大きいですね。
もし、あなたがインターネットでタイヤを購入することを考えているならば、こちらの記事に目を通してください。多分有益です。
>>>タイヤのネット購入で失敗しないコツと方法【プロの整備士が伝授します】
スタッドレス・タイヤを夏に使用する不具合
- 次のシーズンはもう使えない(寿命を縮める)
- 夏の燃費が悪くなる
- グリップ力の低下
- ブレーキ力の低下
スタッドレス・タイヤを夏に使用したり、そのまま装着し続けると、上記のような不具合があります。
ノーマルタイヤとスタッドレス・タイヤは、性能や素材が大きく異なるからです。
しかし、これらのデメリットをあなたが全部許容する場合には、スタッドレス・タイヤを夏も使用しても良いと思います。
特に、次のシーズンには新しいスタッドレス・タイヤを購入することを前提に、夏のシーズンにも古いスタッドレス・タイヤを履く、いわゆる「履き潰し」は、積雪地では少なからずやっている人がいます。
重要なこと
夏も履いてしまったスタッドレス・タイヤは性能が大きく落ちてしまうため、基本的に次の冬のシーズンには履けない
これだけは覚えておいてください。
まとめ
- スタッドレスタイヤの寿命はゴムの柔らかさが重要
- 3or4シーズン使用での交換がおすすめ
- しっかり点検したいなら、整備工場へ
- 迷ったら安く新品を購入したほうがいい
以上、自動車のスタッドレスタイヤの寿命・交換時期でした。